滝本誠(映画評論家)
第二回を迎えた今年も多くの怪作が集結、そのなかから絶対の推しを4本ピックアップしてみた。
まずは、とてつもなくシュールな変態作から紹介したい。『死刑台のエレベーター』、『地下鉄のザジ』ほかで知られるフランスの巨匠ルイ・マルが<突然、お狂い>になった『ブラック・ムーン』(1975)である。野に咲くお花ちゃんは踏まれて痛い痛いと泣き、しゃべる一角獣(ロバ)は、画家フランシス・ベーコンの言葉を引き合いに一角獣としては想定外に醜いことの担保とする。このとんでもない世界にヒロインが不思議の国のアリスよろしく迷い込むのである。うれしいのは、この作品が、<ローマの慈愛>(娘が自分の乳で牢獄の父に栄養を与える)を参照、変奏していることだ。さすがに、こんな置き土産はいらないとばかりにフランスでは上映されなかったいわくつきの乳首映画だ。アメリカに渡って、ルイ・マルが撮ったのは少女ブルック・シールズを裸にしての『プリティ・ベイビー』であった。この2本のルイ・マルは相当にヤバい。
60年代のヒッピー・ムーヴメントは、チャールズ・マンソン一派のシャロン・テート殺しを契機に一斉に店じまいがはじまった。ヒッピー・コミューンの自然回帰思考を文明から遠く離れたパプア・ニューギニアを舞につきつめてみせた問題作がフランスの映画監督バーベット・シュローダーの『ラ・ヴァレ(谷)』(1972)だ。地図には<Obscure by Cloud>としか記されていない、雲、霧に閉ざされて、おいそれとは人が近づけない場所への踏査行だ。ピンク・フロイド担当のサントラ盤は、この地図上の名称からきていて、邦題は『雲の影』であった。
1973年リリースのロック・アルバムの名盤にロキシー・ミュージックのセカンド・アルバム『フォー・ユア・プレジャー』がある。このアルバムがいまでも輝くのは、歌というより不気味な語りの異色作「イン・エヴリー・ドリーム・ホーム、ア・ハートエイク」が収録されているからで、その内容といえば、注文しで届いたビニール製ラブ・ドールとの生活である。暗合のように、同時期のロサンゼルスで奇怪なラブ・ドールものが作られていた。変態、残酷、オカルトで、ジェンダー問題をゼロ地点まで引き上げた(下げた)アート作品といっておこう。それが『デス・レース2000』のポール・バーテルの『プライベート・パーツ』(1973)だ。ここでのビニール人形は、息ではなく、水(あるいはお湯)で膨らませるすぐれもの。試みてみませんか?
今回の大目玉として控えるのが、Make You(一人だけ例外) Happy精神に満ち満ちたカルト中カルト、『ウィッカーマン final cut』上映だ。クリストファー・リー存命なら確実にビデオ・レターが届いただろう。リーはそれぐらい不幸な運命に翻弄されたこの作品を自らの代表作として愛しぬいてきたのである。ポスト・プロダクション完了段階で、製作会社が身売りとなり、スタッフの誰も撮影所からしめだされ、さらに最悪なのは新会社のトップがこの反キリスト教の内容を忌み嫌い、一切の告知なしに、ニコラス・ロークの『Don’t Look Now(邦題「赤い影」)』のそえものとして公開、これは廃棄に等しい。実際フィルムはその後廃棄された。なにしろ、きわめていいかげんな扱いであった。リーは自分の知り合いの新聞の映画欄関係者に自らチケットを買って送るしかなかった、Look Now!
唯一の幸運は、88分の公開ヴァージョンではなく、102分の長尺ヴァージョンがアメリカ公開のための参考扱いでロジャー・コーマンのもとに送付されていたことだ。つぎはぎ魔のコーマンのもとへ送ることは普通、恐怖でしかないが、『ウィッカーマン』は、逆に救われたのである。今回のは40周年記念として、監督のロビン・ハーディがお墨付きを与えたヴァージョンである。
最初、そのまま脚色しようとしてうまくいかなかった原作のデイヴィッド・ピナー『The Ritual』は、ケルトの弓殺による供儀(日本の弓道!も学んだ)で、ウィッカ―マンはでてこない。しかし、原作のパブの父娘はリンゼー・ケンプ/ブリット・エクランドとして残っている。原作は乳首小説といっていいほどに、ニップルが多用される。ヒロインは乳首で男の子をてなずけ、若い刑事を誘惑するのだ。
再注目の『ウィッカーマン』だが、この機会にぜひ!
トラストしてくだされ。
申し訳ございません。HPスケジュールに下記誤りがございました。
配布チラシ通りのスケジュールとなります。
9/3(木) 18:50回〈誤〉【F】『ロベルトは今夜』 → 〈正〉【J】『知られぬ人』
9/15(火) 18:50回〈誤〉【I】『血を吸うカメラ』 → 〈正〉【M】『血を吸うカメラ』
『ウィッカーマン final cut』追加上映 決定! 10/17(土)~10/23(金) 連日12:30
© canal+ |
行方不明の少女捜索のためスコットランドの孤島に上陸したハウィー警部は捜査に取り掛かるのだが、島はサマーアイル卿(C・リー)が統治するケルト神話に支配された禁断の地だった。『ウィッカ―マン final cut』は『ウィッカ―マン』(1973)の製作40周年記念作品としてR・ハーディが未使用のフーテージも使用し再編集して完成させた。88分公開バージョンより6分長い。
日本初公開。
監督 | ロビン・ハーディ |
出演 | エドワード・ウッドワード/クリストファー・リー/ブリット・エクランド |
作品データ | 2013年/イギリス/94分 |
© 1986 MALJACK PRODUCTIONS |
14歳の時、虐待を繰り返す母を殺害したヘンリーの内に潜む殺人への衝動は抑えきれなかった。アメリカで300人以上を殺害したと伝わる連続殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスの生き様をドキュメンタリータッチで描いたマクノートンの衝撃デビューのシリアル・キラー。
監督・制作・脚本 | ジョン・マクノートン |
出演 | マイケル・ルーカー/トレーシー・アーノルド |
作品データ | 1986年/アメリカ/83分 |
© Gaumont |
一人の少女がある館に迷い込む。ラジオがメッセージを伝え、動物が喋る、が人の声はしない。そのうちそれらが黙示的光景のように見えてくる。映画の冒頭「本作は理屈の通じない世界での作品です」と監督の言葉を伝える。全編「不思議な国のアリス」のヴァリエーションともいうべき、鏡を越えた世界を描いたルイ・マルの奇怪作。
監督 | ルイ・マル |
出演 | キャスリン・ハリソン/ジョー・ダレッサンドロ |
作品データ | 1975年/フランス=イタリア=西ドイツ/97分 |
© Premier Pictures |
『デス・レース2000年』で知られる異色の監督(俳優も)ポール・バーテルの処女作でその独特の映像感覚には隠れたファンも多い。ある女性が迷い込んだホテルを舞台に展開されるこの作品のプロットはヒッチコックの『サイコ』のような展開を見せるが、作品は”奇想天外”。一色に染まった変態サイコサスペンス怪作。
監督 | ポール・バーテル |
出演 | エイン・リュイメン/ルシール・ベンソン |
作品データ | 1972年/アメリカ/87分 |
© les films du losange |
ニューギニア。未知の谷を目指す冒険家の青年一行と出会ったヴィヴィアーヌは彼等の旅に同行することに。やがてその過程で彼女は次第に自分を解き放し生の喜びに目覚めていく。幻想に満ちたアルメンドロスの魔術的映像美と神秘と魔性のメッセージを伝えるピンク・フロイドのテーマ曲が一つの時代の終焉を刻んで、魂を揺さぶる。
監督 | バーべット・シュローダー |
出演 | ビュル・オジェ/ジャン=ピエール・カルフォン |
音楽 | ピンク・フロイド(「雲の影」) |
作品データ | 1972年/フランス/100分 |
© Sylvie Zucca |
妻と他の男との戯れを覗き見る老紳士とそれに抵抗する妻。原作者であるクロソフスキー自身と妻が演じるという究極のスキャンダラスに満ちたプライヴェート・フィルム。
バーベット・シュローダーやダニエル・シュミットなどの友人も出演。日本でも小説や評論が翻訳されているクロソフスキーは背徳の作家、哲学者、神学者として名高い。画家バルチュスは実弟である。
監督 | ピエール・ズッカ |
出演 | ピエール・クロソフスキー/ドゥニーズ=モラン・サンクレール/バーベット・シュローダー/ダニエル・シュミット |
原作 | ピエール・クロソフスキー「艦隊の掟」 |
作品データ | 1977年/フランス/100分 |
© Jovan Maekovic |
1938年の夏のある日、当局の尋問を受けていたハルムスが久しぶりにアパートに帰ってくる。彼は7年前に反ソヴィエト活動をした芸術家として追放されており、当局にマークされて創作活動もできなかった。突然、埃の溜まった部屋に窓を破って”天使”
が参入してきたことから、ハルムスの奇妙な生活が始まる…。ロシア・アヴァンギャルド最後の一人異端の作家”ダニール・ハルムスの摩訶不思議な2日間を描いた異色作。
監督 | スロボタン・D・べシチ |
出演 | フラノ・ラシチ/ダミヤナ・ルトハル |
作品データ | 1988年/ユーゴスラヴィア/92分 |
1880年生まれ。映画史にその名を深く刻んだ怪作『フリークス』をはじめ、愛する女のために自らの腕を切り落とす男をロン・チェイニーが演じたサイレント時代の傑作『知られぬ人』ほか5作品を上映。
©1932MGM |
“心の醜い人間こそが怪物だ”。90 年近くの時を経て今なお燦然と輝く“映画史上唯一無二の存在”ともいえる奇跡の怪作。
出演 | ハリー・アールズ/ウォーレス・フォード/オルガ・バクラノヴァ |
作品データ | 1932年/64分/35mm |
©1927MGM |
サーカス小屋出身の監督ブラウニングが見世物小屋に生きる“過去を持つ”さまざな人間たちを描いた群像ドラマで、5年後の「フリークス」を予感させるシークエンスも登場する。
出演 | ジョン・ギルバート/ルネ・アドレー/ライオネル・バリモア |
作品データ | 1927年/73分/サイレント |
出演 | ロン・チェイニー/ノーマン・ケリー /ジョーン・クロフォード |
作品データ | 1927年/63分/サイレント |
出演 | ライオネル・バリモア/モーリン・オサリヴァン |
作品データ | 1936年/78分 |
出演 | ライオネル・バリモア/エリザベス・アラン/ ベラ・ルゴシ |
作品データ | 1935年/68分 |
© Tamasa Distribution |
衝撃的なスナッフ・ムービーの撮影シーンから始まる『血を吸うカメラ』は公開当時、その先駆的映像テーマで徹底的に批判され、長い間、映画史の闇に葬られたサイコスリラー映画の原点ともいうべき傑作。
監督 | マイケル・パウエル |
出演 | カールハインツ・ベーム |
作品データ | 1960年/イギリス/102分 |
上映期間 | 8/29(土)~9/18(金) |
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当日料金 | 一般:1,500円/大学・高校:1,300円/シニア:1,000円 |
特別鑑賞券 | 3回券の販売は終了いたしました。 |