レスリングは両肩が1秒でもマットにつくと試合が終わる「一瞬」で全てが決まる勝負の世界である。
1984年、ロサンゼルス五輪で金メダリストになったレスラー富山英明は、現役引退後、中学時代から書き溜めた日記をもとに自叙伝『夢を喰う』でその半生を綴った。それは夢を叶えるまでの単なるサクセスストーリーではなく、予期せぬ「まさか」に翻弄されながらも、夢を喰った人間の孤独な問いであった。
それから40年後の『夢を喰う』を描く本作は、2015年に制作が開始され、8年もの制作期間を経て完成した。
アスリートはある時に引退を迎えるが、富山がレスリングを見つめる「目」はずっと変わらない。夢を喰らってしまい、生涯レスラーとして生きる宿命を背負っている目である。
富山は「一瞬」で全てが決まる勝負の世界に身を置きながら、一瞬で決まる「勝負」だけに捉われない。“負けることを許されない宿命を背負った者の苦悩”と、“どんなに望んでも勝てない者の苦悩”を等価に理解する度量が、時に鋭く時にやさしい、喜怒哀楽に溢れた表情に表れている。そんな富山の生き様を見つめてゆくと、ある問いが浮かびあがってくる。
「人は人生に何を求め、何を遺そうとしているのか。」
普遍的ではあるが、一途に問い続けたその先に何が見えてくるのか。
まさに本作は、あれから40年後の孤独な問いを描いている。
監督・撮影 | 藤森圭太郎 |
出演 | 富山英明 |
原案 | 『夢を喰う』富山英明著(1984年12月6日/郁朋社) |
作品データ | 2023年/日本/75分/16:9 |
配給 | MUGENUP |
上映期間 | 7/6(土)~7/19(金) |
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上映時間 | 10:00 |
当日料金 | 一般:1,800円/大学・高校:1,500円/シニア:1,200円/障がい者:1,000円 |